2011-07-29 18:39:00

特集:教皇の言葉 「ヨーロッパの移動民族との出会いでの挨拶」(2011.6.11)


親愛なる兄弟姉妹の皆さん
主は皆さんと共に

聖ペトロの墓前への皆さんの巡礼を機会に、こうしてお会いできることを大変うれしく思います。また皆さんが寄せてくださった数々の意義ある証しにも心から感謝いたします。

皆さんの信仰と、キリストとその教会、そして教皇への愛を表明するこの巡礼のために、皆さんはヨーロッパ各国からローマに来られました。教会はすべての人々の家です。

1965年、神のしもべ教皇パウロ6世は、移動民族の人々にこう語りました。「皆さんは教会の隅の存在ではありません。むしろある意味で、皆さんは教会の中心にいます。 あなたたちは教会の心のただ中にいるのです」。

今日、私も愛情を込めて繰り返します。「皆さんは教会のまん中にいます」。皆さんは旅する神の民の大切なメンバーです。「私たちはこの地上に永久の都を持っていません。私たちが探し求めているのは来るべき都です」(ヘブライ人への手紙 13,14)ということを皆さんは私たちに教えてくれます。救いのメッセージは皆さんのもとにも届けられ、皆さんはこれに信仰と希望をもって答え、教会を多くの信徒、司祭や助祭、修道女や修道者たちで豊かにしてくれました。

皆さんの民は、教会に福者ゼフェリーノ・ヒメネス・マッラを与えてくれました。今年は、福者ゼフェリーノの生誕150年、殉教75年を記念します。主との友情はこの殉教者を信仰と愛の真の証人としました。神を礼拝するその真剣さと共に、彼はすべての人や出来事の中に神の現存を見出していました。福者ゼフェリーノは、教会とその牧者たちを心から愛していました。

フランシスコ会第三会員であった彼は、自分自身の民族的アイデンティティーにあくまでも忠実でした。彼の共同体の伝統にのっとった結婚をしましたが、妻と共に教会の婚姻の秘跡によってキリスト教的結婚の絆を強めることを希望しました。

彼の深い宗教性は、毎日のミサへの参加、またロザリオの祈りによく表れていました。彼は常にロザリオをポケットの中に持っていました。まさしくそれが彼の拘束の理由となり、彼は本物の「ロザリオの殉教者」となったのです。その死の時でさえも、誰も彼からロザリオを取り上げることはできませんでした。

今日、福者ゼフェリーノはその生き方に倣うよう皆さんを招き、そのための道を示してくれます。祈りに励むこと、聖体や他の秘跡を愛すること。さらに掟を守ること、誠実であること、愛徳を行うこと、隣人、特に貧しい人々に対して寛大であること。こうしたことが皆さんを強め、教会との交わりを危険に陥れる様々なセクトやグループから、皆さんを守ってくれることでしょう。 

皆さんの歴史は複雑で、いくつかの時代においてそれは大変悲劇的なものでした。あなたがたは過去の世紀において国家というイデオロギーを生きることはせず、土地を所有すること、他の民族を支配することも望みませんでした。皆さんは祖国を持たず、全大陸そのものを我が家と考えきました。しかしながら、皆さんが生活している社会との関係など、深刻で懸念される様々な問題もあります。

残念ながら長い歴史の中で、あなたがたは人々から受け入れられないという苦しみ、時には第二次世界大戦時に起きたようなむごい迫害をも経験してきました。何千何万もの男女、子供たちが強制収容所で殺害されました。この悲劇は現在でもあまり知られておらず、犠牲者の実数を突き止めるのは困難な状態です。皆さんの家族はその痛みを今も心の奥深くに刻みこんでいます。

2006年5月28日、アウシュビッツ=ビルケナウの強制収容所を訪問した時、迫害の犠牲者たちを思い起こすロマ語で書かれた記念碑の前に膝まづき、亡くなった方々のために心から祈りました。ヨーロッパの良心はこの痛みを忘れることはできません。皆さんが虐待や拒絶や軽蔑の対象となることが二度とありませんように。皆さんは、常に正義と和解を社会の中で目指してください。

現在、幸い状況は変化しつつあります。新たな認識と共に、新しい機会が皆さんの前に開けてきました。長い歴史の中で、皆さんは音楽や歌といった深い芸術表現によって一つの文化を築き上げ、それはヨーロッパを豊かにしてきました。今日、多くの民族がすでに移動型の生活を営まず、定住とそれに伴う新しい生き方を求めています。

教会は皆さんと共に歩み、キリストの力に信頼し、福音の求めに応じながら、よりよい未来に向かって生きるよう励ましています。ヨーロッパも国境を取り除き、民族や文化の違いを豊かさだと認識することで、皆さんに新しい可能性を提供しています。

親愛なる兄弟の皆さん、皆さん自身のため、またヨーロッパのために、歴史の新たなページを記してください。ふさわしい住まいと仕事、そして子供たちの教育の追求こそ、皆さんと社会全体が多くの利益を引き出すための基盤だと言えましょう。皆さんの家族がヨーロッパの社会で尊厳をもって生きられるよう、皆さんの実際的で誠実な協力が同時に期待されています。

あなたがたの中には他の人々のように皆と共に生き、学ぶことを望んでいる多くの若者や子供たちがいます。皆さんの子供たちによりよい生活への権利があることを確信しながら、私は彼ら一人ひとりに特別な愛を込めて目を向けます。皆さんの最も大きな希望がこれら子供たちの善でありますように。小さな家庭教会でもある皆さんの家族の尊厳と価値を守ってください。それぞれの家庭が真のヒューマニズムの学舎となりますように。

皆さんもそれぞれの共同体における司牧活動を促進しながら、教会の福音宣教に積極的に参加するよう招かれています。皆さんの民族が輩出した多くの司祭や助祭、修道者たちの存在は神の恵みであると同時に、これからもますます支持し発展させるべき地域教会との対話のポジティブなしるしです。これら皆さんの兄弟姉妹たちに信頼し、その声に耳を傾けてください。そして、彼らと共に、皆さんに豊かに注がれる神の愛の喜ばしい便りを伝えてください。

教会はすべての人々が同じ父の子であり、同じ人類家族のメンバーであることを知ってほしいと希望しています。聖霊降臨に際して主が使徒たちに御自分の霊を注がれた時、使徒たちはすべての民族の言語でキリストの福音を述べ始めました。皆さんに、そして世界に散らばる皆さんの家族と共同体の上に、聖霊が豊かに注がれ、あなたがた一人ひとりを復活されたキリストの喜ばしい証人としてくださいますように。

皆さんにとって大変親しい存在であり、あなたがたが愛をこめて「アマリ・デヴレケリデ」(われらの神の御母)と呼ぶ聖母マリアが、世界の旅路をいつも皆さんと共にし、福者ゼフェリーノがその取次ぎをもって皆さんを常に支えてくださいますように。
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注:殉教者・福者ゼフェリーノ・ヒメネス・マッラ(1861-1936)
ゼフェリーノは、スペインのヒターノの一族出身。フランシスコ会第三会員であった彼は、信仰篤く、平和と祈りの人として知られた。スペイン内戦下、無政府主義者らに連行されていく司祭を逃がし、これによって逮捕・銃殺された。1997年、教皇ヨハネ・パウロ2世によって列福された。








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