2010-02-19 16:12:02

さらなる世界の農業支援に向けて:国際農業開発基金(IFAD)大村由紀子副総裁に聞く
 


国際農業開発基金(本部:ローマ)で、第33回管理理事会が17日、18日の両日開催され、ヨーロッパやアフリカなどのリーダー、専門家が集い、開発途上国の小規模農家の発展のために話し合いを持った。

国際農業開発基金(IFAD)は、食糧農業機関(FAO)と世界食糧計画(WFP)と共にローマに本部を置く国連の3つの食糧関連機関の一つで、飢餓と貧困撲滅のため、開発途上国の農業・農村開発プロジェクトに必要な資金を緩和された条件で提供することを目的としている。

各国の努力により一時減少した飢餓人口は、2000年から再び増加し、現在ついに10億人を超えた。また、発展途上国の農村地帯を中心に世界でおよそ20億人が1日2米ドル以下で生活している。深刻な飢餓・貧困問題に対し、こうした農村地帯の小規模農家の生産能力を向上させることは非常に重要な課題となっている。

飢餓問題はカトリック教会が常に大きな関心を寄せてきた問題の一つであり、教皇ベネディクト16世も機会あるごとに飢餓・貧困撲滅のための発展途上国の農業支援を呼びかけている。昨年11月、食糧農業機関(FAO)を訪問した教皇は世界食糧サミットの席で、飢えは貧困の最も過酷な実態であるとし、人類家族の共通課題である食糧問題への具体的・積極的取り組みを強くアピールした。

飢餓撲滅を目指す農業開発支援の現在と未来について、世界銀行グループの多国間投資保証機関の長官を経て、今年2月にIFADの副総裁に就任した大村由紀子氏に伺った。


Q  各国や国際機関などの支援と努力によって、世界の農業開発に一定の効果は見えているが、飢餓人口は減少しない。その原因は非常に複雑ですが、大村副総裁はその中の主な原因をどのように考えておられますか。

A  飢餓人口が増えている原因の一つには、気候変動で大きな打撃を受けている国々がアジアやアフリカにあるということです。それが農業生産をかなり落としています。
もう一つは、世界が農産物の重要性を認識し始めたのはごく最近であるということです。各国は観光や、企業などを通した開発を試みていましたが、農業開発にはあまり力を入れていないところが多かったと思います。
農産物の価格が上昇した中で、非常に危機感を抱き、農業開発をしなくては大変だということで、農業問題は優先課題となりました。国際機関でもいろいろな援助をしていますが、農業を中心にしようとしたのはごく最近のことです。


Q  ここ数年、農業開発の支援は折り返し地点に来ている、従来の方法に対する再考の時にあるとも言われています。例えば、援助側の一方的なものさしで支援が行われていないか、援助される側のニーズを調査し彼らもそれを喜んで受け入れたが、環境・生活・文化に変化が起きてしまうことはないのか、などの声が聞かれます。

A  援助には良いことも悪いことも両方あります。ですから、援助をどういう方向にもっていくかが重要な課題です。
極端な話をしますと、80年代では、すべて政府機関、国際機関が援助し、民間はほとんど援助していなかった。この間、発展途上国の状況は変わらなかった。
90年代は、民間が一生懸命やろうとしましたが、それも不十分であった。
21世紀になって、そういう経済状況から脱するためには、どうしても民間と公共のパートナーシップが必要だと思います。国際機関の援助も含めて、民間の事業を育てていくためには、各国の政府および国民とパートナーとなって仕事をしないとうまくいかないと思います。


Q  支援をする中で、それが一方通行的なものに終わらず、援助する側にも学ぶことがあり、双方にコミュニケーションが生まれ、計画がよい方向に育っていったという手ごたえは各所で感じられますか。

A  手ごたえはもちろんあります。最終的に援助はまったく必要なくなるというのが、私たちの目標です。
現地に入って農民たちと仕事をし、経済上の支援だけでなく、技術を与えることは非常に重要だと思います。こうして生産率を上げ、独立させていくというのが目的ですから、相手国と交渉しながら、押し付けるのではなく、お互いに学びながら一緒に行動していくことが一番うまくいく方法だと思っています。ですから、IFADもここ数年の間に30ヶ所でのオフィス設置を計画しながら、現地で働く体制を次第に整えています。こうした方法が一番良いと思います。


Q  相手側に伝えられたことは持続していますか。また、支援を受けた人々の周囲にも広がっていますか。

A  伝えられたことは持続しています。IFADが対象としているのは小規模農家です。彼らの農業生産の技術が上がり、それが村中に広がることを目標にしています。(今回行われた)ファーマーズ・フォーラムでは、支援の結果発展しているという多くの報告が得られました。


Q  今日の先進国で農産物が大量に売買され、無造作に消費される中、農産物がどこで、どのような人々によって、どう育てられたのかも忘れ去られ、食糧問題に対する無関心がいまだ見られる状況です。しかし、その一方で、各国政府はもとより一般市民にも、今、食糧問題や農業に対する関心の高まりが芽生えています。中には海外の農業・食糧事情にも興味を持ち、外国で農業支援に携わる人たちもいます。こうした人々への励ましのメッセージをお願いします。また大村副総裁ご自身のIFADにおけるこれからの抱負をお聞かせください。

A  日本の皆さんに向けてですが、以前の仕事で、インフラ・プロジェクトのためボリビアに行った時のことです。道路開発のプロジェクトで泥沼の中を入って行ったのですが、驚いたのは、その時、そこに日本人が2人いたことなのです。相手もどうしてこんなところに日本人がいるのかと思っていました。彼らは技術者だったのです。彼ら2人が必死になって現地の人たちを指導して、なんとかこの道路を通していきたいと努力していました。それを見て、私は非常に感激しました。
日本は農業においても非常に高い技術を持っていると思います。日本は土地が狭い。土地に制限がありますから、いろいろな技術で農業が非常に高度に発展している。その技術の提供を、本当にアフリカやアジアの貧しい国々は喜んでいると思います。ぜひそれを続けて行って欲しいと思います。そして、世界にその技術を広げて欲しいのです。

私個人としては、IFADの支援は増えているがそれだけではまだまだ足りない、もっと行わなければならない、そのためにカナヨ・F・ウワンゼ総裁と協力してIFADの効率性を上げ、最も需要の高いところに手を差し伸べ、援助していきたいと思っています。







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